「教材にイラストや図解を入れたい。でも絵心がない。素材サイトで探すと時間だけが溶ける」——塾講師、学校の先生、家庭学習を支える保護者。教材づくりに関わる人なら、一度はぶつかる壁ではないでしょうか。

2025年3月にリリースされたGPT-4oのネイティブ画像生成を皮切りに、画像生成AIは「テキストで指示すれば画像が出る」時代に入りました。でも、いざ使ってみると「なんか違う」「教材向きじゃない」「著作権は大丈夫?」と手が止まる。

僕は大学院でAI教育の研究をしながら、小学校でのAI授業ワークショップもやっています。その中で気づいたのは、画像生成AIがうまくいかない原因は画力ではなく「何を・なぜ・どう見せたいか」の言語化不足だということ。まさにプロンプトは思考の鏡で、自分の中で「この図で何を伝えたいか」が整理できていないと、AIも迷子になります。

なぜ教材に「ビジュアル」が必要なのか——デュアルコーディング理論

そもそも、なぜテキストだけの教材ではダメなのか。認知心理学のデュアルコーディング理論(Paivio, 1986)は、人間の記憶には「言語チャネル」と「視覚チャネル」の2つがあり、両方を同時に使うと記憶定着が高まると説明します。

MIT Sloan Teaching & Learning Technologiesの2024年のガイドでも、テキストにイラストを加えた教材は、テキストのみと比べて直後の理解度が9%向上し、保持テストでは11ポイント高いスコアを記録したと報告されています。

つまり、教材にビジュアルを入れるのは「見栄え」のためではなく、学習効果を高めるための認知科学的な設計なのです。ただし、Springer Nature掲載の2025年の研究(Enhancing the cognitive load theory and multimedia learning framework with AI insight)は、無関係な装飾画像はむしろ認知負荷を上げると警告しています。「意味のあるビジュアル」だけが学習を助ける

ステップ1:「1教材1ビジュアル」で目的を絞る

画像生成AIを開いて、いきなりプロンプトを打ち込むのはNG。まず「この教材のどこに、何を伝えるためのビジュアルが必要か」を1つだけ決めます。

ビジュアル目的の3分類

目的向いている画像タイプ
概念の可視化水の三態変化、食物連鎖図解・ダイアグラム
手順の明示実験の手順、計算の流れステップ図・フローチャート
興味の喚起単元の導入、表紙イラストイラスト・キャラクター

AIに丸投げしないのがコツ。「算数の教材に使えるいい感じの画像を作って」では、AIは何を出していいかわかりません。「小学3年生向け・分数の大きさ比較・ピザを使った図解」まで絞ると、一発で使える画像が出ます。

以前、小学校のワークショップで子どもたちにAIへの指示を出させたとき、面白いことが起きました。大人は「きれいなイラストを描いて」と抽象的に指示するのに、子どもは「赤い帽子をかぶった猫が魚を持って笑ってる絵」と具体的に描写する。結果、子どもの方が圧倒的にイメージ通りの画像を引き出していたんです。具体的に言語化する力が、そのまま良いプロンプトになる。

ステップ2:「4要素プロンプト」で画像を生成する

目的が決まったら、以下の4要素をプロンプトに盛り込みます。僕がプロンプト設計で使っている「役割・背景・制約・出力形式」のフレームワークを、画像生成に最適化したものです。

画像生成プロンプトの4要素

  1. 被写体(Subject):何を描くか。「分数1/2と1/3の大きさ比較」
  2. スタイル(Style):画風。「フラットデザイン・教科書風・パステルカラー」
  3. 対象者(Audience):誰向けか。「小学3年生が直感で理解できるシンプルさ」
  4. 制約(Constraint):含めないもの、技術条件。「文字なし・白背景・正方形」

Before / After 例

Before:「分数のイラストを描いて」
→ 抽象的すぎてAIが迷う。数式が入った複雑な画像が出がち。

After:「小学3年生向けの算数教材用イラスト。同じ大きさの円を2つ並べ、左は1/2(半分を青く塗る)、右は1/3(3等分の1つを青く塗る)。フラットデザイン、パステルカラー、文字なし、白背景」
→ 1回で教材に使えるレベルの図解が生成される。

深夜2時まで研究室にいると、つい遊びながら学ぶモードでいろんなプロンプトを試してしまうのですが、この4要素を押さえるだけで、教材用途の画像は格段に安定します。

ステップ3:「3点チェック」で検証してから教材に組み込む

生成された画像をそのまま使ってはいけません。必ず以下の3点をチェックします。

教材ビジュアル3点チェック

  1. 正確性チェック:描かれた内容に事実誤認がないか。特に科学系の図解では、AIが構造を間違えることがあります(例:細胞の構造図で核と液胞の位置が逆)。必ず原典・教科書と突き合わせる
  2. 認知負荷チェック:情報量が多すぎないか。対象の学年・レベルに対して複雑すぎる場合は、要素を削って再生成
  3. 倫理・著作権チェック:特定の実在人物や既存キャラクターに似ていないか。教育目的であっても、著作権法第30条の4(AI学習段階の権利制限)と第35条(教育機関の権利制限)の適用範囲を理解しておく必要があります

僕自身、修士1年のとき「ChatGPTで論文書ける」と思って1週間無駄にした苦い経験があります。ハルシネーション検証のために原典確認の手順を一から作り直す羽目になった。画像生成でも同じで、AIが出したものを鵜呑みにせず「本当にこれで合ってる?」と確認する一手間が、教材の信頼性を守る

おすすめツールと使い分け

ツール強み教材向き度
ChatGPT(GPT-4o)テキスト正確描画、対話的に微調整可能◎ 図解・フローチャート
Canva AI(Magic Media)テンプレート豊富、教材レイアウトに直結◎ ワークシート・プリント
Adobe Firefly商用利用可の学習データ、高品質○ イラスト・写真風

特にChatGPTのGPT-4oは、テキストを正確に画像内に描画できるため、ラベル付きの図解やフラッシュカードを作るのに向いています。「ここの文字を変えて」と対話で修正できるのも教材づくりでは大きな利点です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 画像生成AIで作った教材を授業で配布しても著作権上問題ありませんか?

A. 著作権法第35条により、学校その他の教育機関における授業目的の利用は一定の範囲で認められています。ただし、既存の著作物に酷似した画像が生成される可能性があるため、配布前に類似画像がないかGoogle画像検索等で確認することを推奨します。営利目的の塾・教室では条件が異なるため、各ツールの利用規約を確認してください。

Q2. 子どもと一緒に画像生成AIを使っても大丈夫ですか?

A. ChatGPTは13歳以上が利用条件です。13歳未満の場合は、保護者のアカウントで保護者が操作し、子どもには「どんな絵を作りたい?」と言葉で伝えてもらう形がベスト。プロンプトの言語化自体が思考トレーニングになります。

Q3. 画像生成AIで教材を作るのにかかる時間はどれくらいですか?

A. 4要素プロンプトに慣れれば、1枚あたり5〜10分で教材レベルの画像が完成します。素材サイトで「ちょうどいいイラスト」を探す時間(平均20〜30分)と比べると大幅な時短です。ただし、3点チェックの時間は必ず確保してください。

Q4. 無料で使える画像生成AIはありますか?

A. ChatGPT無料プランでもGPT-4oの画像生成が一定回数利用可能です。Canvaの無料プランにもMagic Media機能があります。まずは無料枠で試し、教材づくりに定着してから有料プランを検討するのがおすすめです。

まとめ:教材のビジュアルは「伝えたいこと」から逆算する

画像生成AIで教材を作るための3ステップをおさらいします。

  1. 「1教材1ビジュアル」で目的を絞る——概念の可視化・手順の明示・興味の喚起、どれか1つに決める
  2. 「4要素プロンプト」で画像を生成——被写体・スタイル・対象者・制約を明示する
  3. 「3点チェック」で検証——正確性・認知負荷・倫理著作権を確認してから教材に組み込む

画像生成AIは万能ではありません。でも、「伝えたいこと」が明確な人にとっては、強力な教材づくりの相棒になります。まずは次に作るプリントの1枚、フラッシュカードの1枚から試してみてください。

参考文献

  • MIT Sloan Teaching & Learning Technologies「Supporting Learning with AI-Generated Images: A Research-Backed Guide」2024
    https://mitsloanedtech.mit.edu/2024/03/06/supporting-learning-with-ai-generated-images-a-research-backed-guide/
  • Soyoof, A. et al.「Enhancing the cognitive load theory and multimedia learning framework with AI insight」Discover Education, Springer Nature, 2025
    https://link.springer.com/article/10.1007/s44217-025-00592-6
  • OpenAI「Addendum to GPT-4o System Card: Native Image Generation」2025
    https://cdn.openai.com/11998be9-5319-4302-bfbf-1167e093f1fb/Native_Image_Generation_System_Card.pdf
  • 文化庁「AIと著作権に関する考え方について」2024
    https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/pdf/94037901_01.pdf