「うちの子、本は読んでいるのに国語のテストだけ点が取れないんです」——中学受験コーチとして年間50家庭を伴走するなかで、いちばん多い相談がこれです。読書量は十分なのに読解問題で止まる。親御さんは「もっと本を読ませなきゃ」と焦りますが、実は読書量を増やすだけでは読解力は伸びないことが多いのです。

10年間小学校の教室に立ち、今は受験コーチとして保護者面談を重ねるなかで気づいたことがあります。読解力のつまずきには3つのタイプがあるということ。タイプを見分けずに「とにかく読みなさい」と言うのは、熱の原因を調べずに解熱剤を飲ませるようなものです。子どもを主語にしましょう。まず「この子はどこで止まっているのか」を観察するところから始めてみてください。

なぜ「読書量を増やす」だけでは読解力が伸びないのか

文部科学省のPISA2018調査では、日本の15歳の読解力が前回から低下し「情報を探し出す力」の弱さが指摘されました。その後PISA2022では世界3位に回復しましたが、2024年度の全国学力・学習状況調査では中学3年生の国語読解問題の平均正答率が前年から大きく低下するなど、読解力の課題は依然として残っています。

興味深いのは、「学校外でのインターネット利用が4時間以上」の生徒は読解力を含む全分野で平均点が低い傾向があったこと。つまり読書量だけでなく、文章とどう向き合っているか——読み方の質がカギなのです。

つまずき3タイプの見分け方

私は年間50家庭を見るなかで、読解力のつまずきを以下の3タイプに整理しました。お子さんがどこで止まっているかを知ることが、的確なトレーニングの第一歩です。

タイプ① 語彙不足型——「読めるけど意味がわからない」

文字は追えるけれど、言葉の意味がわからないまま読み進めてしまうタイプです。見分けるサインは次のとおりです。

  • 物語のあらすじを聞くと「よくわからなかった」と答える
  • テストで「この言葉の意味は?」の問題を白紙にする
  • 音読はスラスラできるが、内容を聞くと答えられない

このタイプのお子さんは、文章を音として処理していて意味に変換できていない状態です。大人の常識は通用しません。大人が当たり前に知っている「途方に暮れる」「名残惜しい」といった表現は、子どもにとっては外国語のように見えていることがあります。

タイプ② 構造把握不足型——「部分はわかるが全体がつかめない」

一文一文は理解できるのに、段落同士のつながりや文章全体の流れがつかめないタイプです。

  • 「要するに何の話だった?」と聞くと言葉に詰まる
  • 説明文の問題で「筆者の主張」を選べない
  • 物語の場面転換について聞くと混乱する

タイプ③ 推論不足型——「書いてあることはわかるが行間が読めない」

書かれた情報は正確に読み取れるのに、「なぜこの登場人物はこう行動したのか」「この先どうなると思うか」といった推測の問いで止まるタイプです。

  • 「登場人物の気持ちは?」で的外れな答えを書く
  • 「なぜだと思う?」と聞くと「わからない」で終わる
  • 記述問題が極端に苦手

タイプ別・1日10分の家庭トレーニング

ステップ1(語彙不足型向け):「言い換えしりとり」で語彙を体験に変える

食卓や移動中に、親子で「言い換えしりとり」をやってみてください。たとえば親が「嬉しい」と言ったら、子どもが「ウキウキする」「心が弾む」など別の言葉で言い換える遊びです。

ポイントは、正解を求めないこと。「おもしろい言い方だね!」とまず受け止めてから、「大人はこうも言うよ——'胸が躍る'っていうんだ」と自然に語彙を渡してあげます。朝6時に起きて娘の登校準備をしている我が家でも、朝食の5分間だけこの遊びをやっています。ある日、娘が「悲しい」の言い換えに「胸がぎゅってなる」と答えたとき、この子は感情をちゃんと体で感じているんだなと気づかされました。

ステップ2(構造把握不足型向け):「3行あらすじ」で全体をつかむ練習

お子さんが本や教科書を読んだあとに、「はじめ・なか・おわり」の3行であらすじを言ってみてと声をかけます。

  1. はじめ:どんな状況だった?
  2. なか:何が起きた?
  3. おわり:どうなった?

最初は「なかが長すぎる」「おわりが抜ける」など偏りが出ますが、それ自体が構造把握のどこが弱いかを教えてくれます。慣れてきたら説明文でも試して、「はじめ=問い」「なか=理由」「おわり=結論」に置き換える練習に進みましょう。

ステップ3(推論不足型向け):「なんでだろう?タイム」で行間を言葉にする

物語を一緒に読みながら、1か所だけ立ち止まって「この人はなんでこうしたんだろうね?」と問いかけます。

ここで大切なのは、「なんで?」は1回だけにすること。以前、読書感想文が書けない子を見てきた経験から断言できますが、「なんで?」の掘り下げは1回が限度です。2回以上重ねると尋問になり、子どもは口を閉ざしてしまいます。

お子さんが答えたら、正誤を問わず「なるほど、そういう見方もあるね」と受け止めてください。親が先に自分の解釈を言ってみるのも効果的です。「お母さんはこう思ったんだけど、○○ちゃんはどう?」と対等な目線で話すと、子どもは安心して自分の考えを言葉にできるようになります。

親が焦ると逆効果になる理由

読解力のトレーニングで最も大切なのは、実は親の姿勢です。

以前、受験直前期に「もう無理」と泣いた6年生のお子さんがいました。過去問で連続して不合格点を取り、気力を失っていた。塾の先生は「メンタルが弱い」と言いましたが、私は保護者の方に1時間電話で話しました。「点数より先に、お母さんが肩の力を抜いてください」と。休養後、そのお子さんは自分から過去問を解き始め、本番では志望校に合格しました。

親が緩むと子も緩みます。読解力も同じです。「今日のトレーニングやった?」と毎日チェックするのではなく、食卓の会話のなかに自然に織り込む。うまくいかない日があっても「まあいいか」と流す。その余白が、子どもの読む力を静かに育てていきます。

まとめ

  • 読解力が伸びない原因は読書量ではなく、つまずきのタイプが異なるから
  • 語彙不足型には「言い換えしりとり」で語彙を体験に結びつける
  • 構造把握不足型には「3行あらすじ」で全体像をつかむ練習を
  • 推論不足型には「なんでだろう?タイム」で行間を言葉にする
  • 1日10分、食卓の会話に織り込むだけで十分。親が焦らないことがいちばんの土台

よくある質問(FAQ)

Q1. 子どものつまずきタイプが複数当てはまる場合、どこから始めればいいですか?

語彙→構造→推論の順で取り組んでください。語彙がわからなければ構造もつかめず、構造がわからなければ推論もできません。まずは「言い換えしりとり」で語彙の土台を固めるところから始めると、他の力も自然と底上げされます。

Q2. 音読は読解力トレーニングに効果がありますか?

音読は「文字を音に変換する力」を鍛えるのに有効ですが、それだけでは読解力は伸びません。音読のあとに「どんな話だった?」と1つ質問を加えるだけで、音の処理から意味の処理に切り替わり、効果が大きく変わります。

Q3. 学年が上がるほど読解力の差は広がりますか?

残念ながら広がる傾向があります。文部科学省の全国学力調査でも、小学6年生と中学3年生では読解問題の正答率に大きな差が出ています。ただし、つまずきのタイプを特定して早めに手を打てば、高学年からでも十分に伸ばせます。焦る必要はありません。

Q4. 読書嫌いの子でもこのトレーニングはできますか?

できます。「言い換えしりとり」は本がなくても会話だけでできますし、「3行あらすじ」は教科書の1ページ分でも練習になります。本が苦手なら、マンガやゲームの攻略本でも構いません。子どもの好きから始めると学びは立ち上がります。

Q5. 塾の読解問題集とこのトレーニング、どちらを優先すべきですか?

併用がベストですが、優先するならこの家庭トレーニングです。問題集は「解く力」を鍛えますが、つまずきの原因が語彙や構造把握にある場合、いくら問題を解いても的外れになります。つまずきタイプを見分けてから問題集に取り組むと、効率が格段に上がります。

参考文献